世界のリゾートシーンを見てきたからこそわかる、白樺湖畔のポテンシャル

福井 五大

Godai Fukui

茅野市 [長野県]

福井 五大(ふくい・ごだい)
1983年生まれ。白樺湖で育ち、高校卒業後はスキークロス選手として海外のレースを転戦。2013年に引退後、都内で自転車ショップやSUPブランド「PEAKS5」を立ち上げ、店舗を運営。2019年に白樺湖にUターンし、両親が営むペンションを引き継ぎ運営中。

緑豊かな長野県。その中でも、白樺湖エリアは、湖や山など自然の風物に恵まれた土地だ。
ここで、SUPやe-bikeのツアーなどのアクティビティを提供したり、アウトドアショップを運営しているのが福井五大さん。スキークロスの日本代表として世界を転戦したり、SUPの日本選手権で優勝したりと自然をフィールドにしたスポーツにおいて、日本や世界の第一線で活躍してきた人物だ。
そんな福井さんが白樺湖に感じるポテンシャル、そして引き継ぎたい風景について話を聞いた。

世界の第一線で活躍後、地元・白樺湖でつくり出す第2のキャリア

「実家は宿を営んでいて、週末や連休になると、お客さんがたくさん来る。いつも賑やかな風景が広がっていましたね。朝起きてカーテンを開けたら、目の前の白樺湖でワカサギ釣りをしている人が200人くらいいるんです。それが小さい頃の原風景です」

そう話す福井五大さん。スキークロスやSUPの競技で活躍してきた、生粋のアスリートだ。白樺湖にUターンした現在は、SUPやe-bikeのツアーなどを展開する八ヶ岳アドベンチャーツアーズを立ち上げ、活動している。

大学進学を機に、福井さんは一度生まれ育った白樺湖を離れた。神奈川の大学でスキー部に入部。スキークロスの世界で活躍し、日本代表としてヨーロッパやアメリカ、カナダなど、世界中を転戦していたという。競技に熱中していた20代前半を経たのち、少しずつセカンドキャリアについて考えることも増えていった。

「20代後半になると、少しずつ引退が頭の中にちらついてくる。ただ、そのときから『自分が楽しめる仕事・得意とする仕事を、地元でやりたい』という想いは強く持っていましたね。ちょうど同じ時期にスキークロスで活躍していたメンバーも、雪国出身で実家が観光業を営んでいる人も多かったんです。境遇も似ていたから、よくレースの合間を縫って観光地を巡っては『世界のリゾートシーンは、日本とこう違う』などと語り合っていました」

各地を巡った中でも、やはり印象に残ったのは、原風景に近い「湖のある街」だった。

「海外ではレイクリゾートが盛んな地域もあって。『白樺湖っぽいなぁ』と、気付いたら地元の景色と重ねていることもありましたね」

そんな中、かかとを粉砕骨折するほどの大けがを負うアクシデントに遭い、スキークロス選手を引退。その後、家族や仲間とともに新たな生業をつくっていく。

「ちょうど弟が海外の自転車を輸入販売する事業をはじめようとしていたので、一緒に取り組みました。ほかにも、スキー選手時代の仲間と一緒にSUPのブランドを立ち上げて、東京や神奈川で店舗をつくって販売したり。さらに、ただ販売するだけではなく、e-bikeやSUP体験ツアーも企画しました。

そして、子どもが小学校入学のタイミングで2019年に白樺湖にUターン。父が運営していたカヌーのガイド事業を引き継ぎながら、白樺湖でもe-bikeやSUPなどのアクティビティ事業を展開していきました」

その後も、白樺湖エリアでツアー事業を拡大させるほか、アウトドアショップをオープンさせるなど、精力的に活動を続けている。

自然の楽しみ方を知っている自分だから提供できるアクティビティ

自然豊かな長野県の中央部に近い場所に位置する白樺湖エリア。東京や名古屋といった大都市圏からも3時間程度とアクセスもよく、夏も涼しい避暑地として、じわじわと人気を集めている。

「世界各地の湖って、森の奥深くにあったり、木々に囲まれていたりして、なかなか湖面近くまで行くのが大変なことも多いんですけど、白樺湖はアクセスもいいし、湖の周りが開けているから湖面にも気軽に行ける。身近で親近感のある珍しい湖なんですよね。それにヴィーナスラインと呼ばれる観光道路から眺めると、背景の山々と相まって独特の雰囲気が広がっている。それはもう絶景ですよ。世界中のいくつもの観光地を見てきましたけれど、あの風景はトップクラスだと思います」

湖畔のシチュエーションを活かしたアクティビティを中心とした事業を展開する福井さん。その想いの裏側には、競技生活の中で自然と深く関わってきた経験がある。

「幼い頃は湖の近くで暮らして、スキー選手になったら雪山を滑る。引退後は海や湖でSUPを楽しんだり、e-bikeで山を走り抜けたり……ずっと自然と戯れながら生きてきました。実は、スキー選手として活動していた学生時代も、繁忙期は家業の宿を手伝っていて。『こんなにお客さんが来ているんだから、自然を愛している自分がアクティビティを提供できたら、もっとみんな旅の思い出が深まるだろうな』と思っていたんですよね」

大自然をフィールドに、競い、遊び、暮らしてきた福井さんは、多くの人が知らない自然の魅力や楽しみ方を知っている。その経験や風景を共有するアクティビティは、多くの人の記憶に深く刻まれる体験となるだろう。八ヶ岳アドベンチャーツアーズの人気コンテンツ、e-bikeツアーもそのひとつだ。

「もともと現役時代、トレーニングも兼ねてマウンテンバイクやロードバイクに乗って、白樺湖エリアをよく走っていたんです。登り切った先にはとても気持ちいい風景が広がっているんですが、一般のお客さんはなかなかそこまで辿り着けない。だから、弟が輸入したe-bikeでツアーを実施しようと思いついたんです。クルマでドライブもいいけれど、自転車だと風や匂いも楽しめる。そんなプロセスも楽しみながら、最終的に僕が大好きなスポットで絶景を味わってもらえるのは、とても嬉しいですね」

自然とともにあるライフスタイルを、多くの人と分かち合いたい

「自然とともに過ごすのが当たり前。そんな生き方が、白樺湖には根づいている」。そう話す福井さん。プライベートでも、自然と戯れながら過ごしている。

「ガイドツアーの前後に湖に出てちょっとSUPを楽しんだり。子どもを保育園に送っていくときにクルマにスキー道具を積んでおいて、登園後に1時間軽く滑ってから仕事に取りかかったり。休日に家族と山にハイキングに行くこともある。この地域を思いっきり楽しんでいる1人だと思っています」

「白樺湖は、ずっとこんな生き方ができる地域であってほしい」という福井さん。そのために、地域内で事業の輪を広げていきたいと話す。

「『泊まる』という機能と『楽しむ』という体験がもっと両輪で回していけるようになったらいいなと思っています。『せっかくこの地域に泊まったから、何か楽しいことがしたい』『このアクティビティを体験したいから、この地域の宿に泊まろう』など。家業の宿も含め、地域の宿泊事業者や、アクティビティを提供するための仲間とともにいい循環を生み出していきたいんです」

特に今、福井さんが重視しているのは『楽しむ』を提供できるガイドの育成だ。

「この自然と近い生き方を多くの人に共有したいというガイドが増えたら、もっと白樺湖はおもしろい地域になるはず。『平日は仕事をしているから休日だけ趣味のような感覚で取り組む』といったかたちでもいい。一緒に仕事に取り組める仲間を増やし、コミュニティをつくって、地域に関わる人たちのライフスタイルをもっと豊かにしたいと思っています。海外では、1日ガイドするだけで400ドル以上稼げることもある。そうやってガイドのクオリティも、ステータスも、上げていき、ガイドで生計を立てられるようになったらいいですね」

福井さんが見据える“世界水準”のガイド。そんな状況が訪れるのも、そう遠くない未来かもしれない。

(この地域でつなぐもの)
湖とともにあるライフスタイルですかね。湖って多種多様な過ごし方ができるんです。のんびり湖畔のベンチに座って読書をしていてもいいし、朝に遊歩道を散歩してもいい。湖上でSUPを楽しむのも気持ちいい。年齢や世代、趣味を問わず、それぞれの好きな時間を過ごす。そんな風景を守っていきたいですね。