「やりたいことを自らの手でかたちにする」。そんな白樺湖の風景をつないでいく。
川村英之・川村泰子
Hideyuki Kawamura and Yasuko Kawamura
茅野市 [長野県]
川村 英之(かわむら・ひでゆき)川村 泰子(かわむら・やすこ)
1963年に京都から白樺湖へ移住。しばらくして先代が乗馬牧場「ホープロッジ」をオープン。高校卒業後は家業に入り、東京出身の泰子さんと結婚。以来、一家で乗馬体験をはじめとしたアクティビティを提供している。
長野県中央部に位置する高原地帯・白樺湖エリア。ここで、50年以上乗馬体験などのアクティビティを提供してきたのが川村英之さん・泰子さん夫婦だ。自宅や馬小屋をDIYで建てるなど、「やりたいことを自らの手でかたちにする」という生き方を体現してきた川村さん一家。そんな姿に惹きつけられて、夫婦が経営する施設・ホープロッジには、多くの人が訪れているという。地域に根を下ろし、仕事を、暮らしを、営んでいる2人にこれまでとこれからの話を聞いた。
「そこにある当たり前の日常」だった、豊かな湖畔の風景
「先代が西部劇が好きで。馬に乗るシーンに憧れていたんでしょうね。趣味で馬を飼いはじめ、そのまま乗馬体験の事業をはじめたそうです」
そう話す、川村英之さん。白樺湖のほとりで乗馬体験などのアクティビティを提供する施設・ホープロッジを運営している。
「物心ついたときから自然豊かな白樺湖の風景が当たり前にありました。たとえば夏は釣り、冬はスケート。特に白樺湖の冬は寒いから、湖に氷が張るんです。それが、除雪機が乗っても大丈夫なくらい分厚くて。そこでスケート靴を履いて滑っていた記憶があります」
そんな暮らしを「楽しいとか退屈とか考えず、ただそこに当たり前にある日常だった」と英之さんは振り返る。そのまま家業のホープロッジで働くことも自然な流れだった。
「18歳で家業に入りました。馬の世話をしたり、接客をしたり。時には馬小屋をつくったりと、大工仕事をすることもありましたね。マイペースに続けているうちに、気づいたら40年近く経っていました」
そのまま家業を継ぎ、ホープロッジは、この地で長く続く老舗乗馬牧場となっている。
「ほしいものは自分でつくる」。そんなエネルギーに人が引き寄せられる
「訪れるお客様は、ほとんどファミリー層。幼い頃から通っていた方が、大きくなってお子様を連れて訪れることもあります。何十年も運営していると、いろいろなお客様とのつながりが生まれる。それが嬉しいですね」
そう話すのは、英之さんの妻、泰子さん。「ふつうに暮らしていると、『馬に乗る』なんて体験はめったにないですからね。そんな非日常が家族旅行に加わることで、楽しかった思い出として、記憶に刻まれたらいいなと思っています」と語る。
実は、もともと泰子さんは東京出身。移住当初は、高原の暮らしに驚いたという。
「冬に移住したので『こんなに雪が降っているの!?』ってビックリしましたね。朝は水道が凍るからやかんにお湯を張って走り回ったり、斧を持ってストーブの薪を割ったり。体験すること全てが新鮮でした。でも、それが楽しかったんですよね」
特に驚いたのは、「ほしいものは自分でつくってしまう」という精神だ。
「実は、自宅も夫のDIY。なんでも自分でつくってしまうんですよ。東京にいると、不具合があったらすぐに『業者を呼ばないと』と思うけれど、ここでは自分たちで直そうとするんです。簡単な設計図を描いたら、すぐに思い通りのものができる。そんな自分たちの暮らしを、自分たちの手でつくっていくことに感動しました」
英之さんいわく「当たり前のこと」だという生き方。電気、水道、ガスといったインフラ以外は、ほぼ自分たちでかたちにできるのだそう。
「ほしいものは自分でつくってしまう」。そんな望む暮らしを自ら紡ぎ出す姿に、多くの人が引き寄せられてきた。
「きっと先代も『自分が楽しいことは、みんなも楽しいだろう』という想いを持っていたんですよね。だから、この場所には、乗馬を楽しむ人も、働きたいという人も、多くの人が集まってきた。居候して働いていたスタッフもたくさんいて、みんな牧場経営や大工、料理人など、それぞれのやりたいことを見つけて独立していきました」
ホープロッジが提供しているのは、乗馬体験をはじめとしたアクティビティだ。しかし、その裏側にある本質は「やりたいことを自らの手でかたちにする」という想いでつながるコミュニティづくりなのかもしれない。
次世代のチャレンジを、自分の手で応援していきたい
白樺湖で事業をはじめて、50年以上。その変化をどう捉えているのだろうか。
「今、白樺湖は若い世代が頑張っています。親の事業を継いだり、新しい事業を立ち上げたり。年を重ねた世代は、新しいことを立ち上げるのが、あまり得意ではない。だからこそ、若い世代のチャレンジを応援したいと思いますね」と英之さん。
実際に、若い世代を中心に新たに立ち上げられた白樺湖エリアのイベントで、英之さんは得意の“大工仕事”でステージづくりを率先して担っている。
若い世代の活動が活発化し、じわじわ注目を集めつつある白樺湖エリア。そんな追い風もある中で、川村さん夫婦が未来に残したいことを聞いてみた。
「白樺湖は、時間の流れがゆっくり。湖畔をふらっと散歩したり、湖上でカヌーやカヤックを楽しんだり、山に登って普段見れないような景色を見たり、自転車に乗って風を感じたり……自然を身近に感じられる場所です。忙しない日常の中で、穏やかな気持ちになれる時間が、この先も流れていたらいい。乗馬体験が、そんな穏やかな時間を紡ぎ出すひとつのピースになっていたら、嬉しいですね」
(この地域でつなぐもの)
都市部では、なかなか味わえない非日常体験ですかね。東京などの大都市からもアクセスがよいのに、ここまで自然と戯れたり、馬に触れあったりすることができる環境はちょっと珍しいのではないかと思います。気軽に足を運んでいただいて、いろいろな人に楽しい記憶を残していけたら嬉しいですね。